アンカーボルトはこう選ぶ 機器を倒さない引抜き力から考える

はじめに

前回の記事では、地震で機器が基礎ごと転倒しないかを検討しました。ただし基礎がOKでも、機器を基礎に固定するアンカーボルトが負ければ機器は倒れます。この記事では建築設備耐震設計・施工指針をもとに、アンカーボルトにかかる力の計算と選定の手順を解説します。最後に計算ツールも掲載しています。

設備基礎の大きさはこう決める 地震の転倒モーメントから考える
設備機器の基礎サイズを地震時の転倒モーメントで検討する方法を解説。建築設備耐震設計・施工指針に基づく計算式、設計用水平震度Kh・鉛直震度Kvの選び方、重心の求め方を950kgのトランスの実例で紹介。数値を入れるだけの自動計算ツール付き。

アンカーボルトにかかる2つの力

地震のとき、機器は転倒しようとして片側のボルトを引き抜く力(引抜き力)と、横にずらそうとする力(せん断力)を受けます。この2つがボルトの許容値以下であればOKです。

計算式

引抜き力(1本あたり) Rb = { FH×hG − (W−FV)×lG } / ( l×nt ) …(式1)
せん断力(1本あたり) Q = FH / n …(式2)
FH = Kh×W、FV = Kv×W(Kv = Kh/2) …(式3)
記号意味
FH設計用水平地震力(kN)
FV設計用鉛直地震力(kN)
W機器重量(kN)
hGボルト支持面から機器重心までの高さ(cm)
lG圧縮側ボルトから重心までの水平距離(cm、lG≦l/2)
lボルトスパン=引張側と圧縮側ボルトの間隔(cm)
nt引張側のボルト本数(片側だけ。4本柱脚なら2本)
nボルトの総本数

ポイントは2つです。引っ張られるのは片側のボルトだけなので、引抜きはntで割ります(せん断は全数nで負担)。また式1がマイナスになれば引抜き力は発生せず、せん断の確認だけで済みます。

基礎の転倒検討とは別物です

前回、基礎込みの検討では「保持>転倒でOK」でした。しかしボルトの検討は機器単体で行うため、基礎の重さは助けてくれません。実際、下の計算例では基礎の転倒はOKなのにボルトには引抜き力が発生します。「基礎がOKだからボルトもOK」とはならない点に注意してください。

計算例:屋外トランス(950kg)

前回と同じ機器で、次の条件とします。

  • W = 9.31 kN、Kh = 0.7、Kv = 0.35 → FH = 6.52 kN、FV = 3.26 kN
  • hG = 65cm、ボルトスパン l = 100cm、lG = 50cm(重心ほぼ中央)
  • ボルト4本(四隅)→ nt = 2、n = 4
引抜き力 Rb = { 6.52×65 − (9.31−3.26)×50 } / (100×2)
= ( 423.6 − 302.6 ) / 200 = 0.61 kN/本
せん断力 Q = 6.52 / 4 = 1.63 kN/本

判定:使用するアンカーボルトのカタログの許容引抜き荷重・許容せん断荷重と比較します。たとえば、めねじ形のあと施工金属拡張アンカー(M6〜M12)の床上面での許容引抜き荷重は0.75 kN/本程度と小さく、今回の0.61 kN/本ではぎりぎりです。余裕を見るなら、ヘッド付きの埋込みアンカーボルトや接着系アンカーなど許容値の大きいものを選定します。

あと施工アンカーの種類と注意点

既存の基礎や躯体にあとから打つアンカー(あと施工アンカー)は、大きく2種類に分かれます。どちらも計算どおりの強度が出るかは施工品質次第です。

金属拡張アンカー

  • 先端が開いて(拡張して)コンクリートに食い付く仕組み。当たり前ですが、拡張が不十分だとそのまま抜けます
  • 拡張する分、躯体に衝撃がかかります。薄いスラブや縁の近くではひび割れに注意が必要です
  • 施工が早く安価なため、中軽量の機器固定に多用されます

接着系(ケミカル)アンカー

  • 樹脂でボルトを接着する仕組みで、許容荷重を大きく取れます
  • 穴の清掃が命です。切粉や粉じんが残っていると樹脂が接着せず、ほとんど効きません。ブラシとブロワーでの清掃を必ず行います
  • 樹脂の硬化時間は温度で変わるため、硬化前に触らない管理も必要です

資格について

あと施工アンカーには「あと施工アンカー施工士」(日本建設あと施工アンカー協会)などの資格があり、公共工事などでは資格保有者による施工を求められる場合があります。第2種の場合、必須講習と筆記試験を合わせて3万円強(登録料や5年ごとの更新費用は別)かかります。施工は資格・経験のある施工者に任せ、設計側は種類と許容値の選定に責任を持つ、という分担が現実的です。

施工上の注意(指針より)

  • 有効埋込み長さは基礎表面から20mm入った位置から数える
  • 基礎の縁からの距離はボルト径の4倍以上確保する(縁に近いと欠けて抜ける)。M20以下なら縁から10cm離しておけば安全側です
  • ボルトの打設間隔は径の10倍以上かつ埋込み長さの2倍以上
  • あと施工アンカーは種類によって許容値が大きく違うので必ずカタログで確認

計算ツールの使い方

機器重量・重心・ボルト配置・Khと、使用ボルトの許容値(カタログ値)を入力すると、Rb・Qと判定が表示されます。重心がほぼ中央ならlGは空欄でOKです(l/2で計算します)。

アンカーボルト 引抜き・せん断計算ツール

建築設備耐震設計・施工指針の式をもとに、ボルト1本あたりの引抜き力Rbとせん断力Qを計算します

機器・地震条件

鉛直震度 Kv=Kh/2(自動)。hGはボルト支持面から重心までの高さ

ボルト配置

lGは圧縮側ボルトから重心までの距離(重心が中央なら空欄でOK)

許容値(カタログ値・任意)

まとめ

  • ボルトには引抜き力(式1)とせん断力(式2)がかかる。引抜きは片側nt本、せん断は全数n本で負担
  • 式1がマイナスなら引抜き力は発生しない
  • 基礎の転倒検討がOKでもボルトの引抜きは別に確認が必要
  • 許容値はアンカーの種類・施工方法で大きく変わる。カタログ確認と施工品質が重要

なお本記事の計算は簡易計算です(引張とせん断の組合せによる許容値低減などの詳細は指針によります)。実際の設計においては関係法令・規格および専門家の判断に従ってください。

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